ライター 阿部真麩美
先月、福井県に行ったところ、「紫式部ゆかりの地」という越前市の観光誘致パネルを見かけました。
あら、どんなご縁なの?と思い、確認したら、国士に任命された父とともに越前国たけふで1年ほど過ごしたことがある、というものでした。
今年の大河ドラマ「光る君へ」の放送に合わせて観光客を呼び込む算段のようですが、たけふに居たのはわずか1年だけとなると、ちょっと便乗感が漂ってきませんか。
でも、北海道釧路市では、石川啄木がたった76日過ごしただけで啄木ロードが誕生したし、長崎県五島列島には五島沖に沈んだ海援隊の船の慰霊に来たというだけで坂本龍馬像が建立されていますから、知恵を絞って「ゆかり」をうたうのが、観光地の使命なのかもしれません。
つまり「ゆかり」とは、ゆるくて便利な便乗ワードだったのですね。
ということで、このコラムでも便乗してみましょう。
何しろ、カリカリーナは爪を研げるだけでなく、上にも乗っかれるのが売りですから、どんどん乗っていかニャくちゃね。
前提となるのが、紫式部が仕えた中宮彰子の夫、一条天皇が大の猫好きだということ。
可愛がっている猫が子猫を生むと、本来は人間の子供が生まれた時に行う「産養い(うぶやしない)」という祝い事を行ったり、相応の身分のものしか入れない天皇の内裏(天皇の住む御殿)で可愛がるために、猫に「命婦のおとど(命婦とは官位のある女性の意)」と名付けて貴族の仲間入りをさせたりと、やりたい放題です。
もうこれだけで、便乗する甲斐があるってものですよね。
だって、もしも平安時代にカリカリーナがあったら、一条天皇なら絶対おとどちゃんに買ってあげるはずだと確信できますもの。
そんな様子を間近でみている女房たちの一人、紫式部が猫を意識するのは当然でしょう。
源氏物語でも、物語の要にもなる重要な場面で猫が登場します。
それは、光源氏の正妻、女三宮が柏木に姿を見られてしまうシーン。
御簾から飛び出した猫が紐を引っ掛けて御簾を引き上げてしまい、夫以外の男性に姿を見られてはいけないはずの女三宮が、その愛らしい容姿で柏木を虜にしてしまうのです。
その後二人は不義密通し、後に源氏物語後半の主役となる薫が生まれるのですが、光源氏自身が義理の母である藤壺と密通したことの因果応報を思わせるエピソードですよね。
そんな重要なシーンのキーマンならぬ、キーニャンとなる猫。
世界初の恋愛長編小説に猫が出ているというだけでも嬉しいのに、大事な役どころとなれば、喜びもひとしおです。
ちなみに紫式部のライバルと言われる清少納言も、枕草子の中に何度も猫のことを書いているんですよ。
むさ苦しく見えるものとして猫の耳の中、似つかわしくないものとして老いた男が猫なで声で呼ぶことなど、共感できるものも多々あります。
一条天皇が猫好きだったおかげで、今年の大河ドラマには猫が出てくるシーンがきっとあるはず。
そして、その猫が「おとど」と呼ばれていたら、今年生まれる猫さんの名前は、オトちゃんが増える予感。
何しろ、猫を愛する者にとっては、大事なお姫様ですものね。
もちろん、これは飼い主さんの便乗ってことになりますニャ。
ということで、今年もよろしくお願いいたします。
お客様の声より >> 成長に合わせてBasicをサイズアップ。ミヌエットの琴乃ちゃん